★冴川兄弟のドタバタ珍騒動 第一章 001

広くも狭くもない道路の脇に立派な樹が生えている。その道を歩いていると、感じのいい風変わりなお店が立っていて、何だか足を止めたくなる。その店の看板には「トメリカ」と曲線を描くように彫りがしてあり、中に入ってみるとなかなかさわやかな風情である。窓からはそんなに光が入っていないはずなのに何故か明るく、周りは生き生きとした草花がひっそりと包んでいる。入り口に優しい色のガーベラの花を添え、少しアールヌーボーを思わせる曲線と、植物の描かれた扉には小ぶりの鈴がついている。

その扉が開きカランカランと鈴の音が響く。店内はまだ開店前の為客はいない。扉を開けトメリカに足を運んだ男は高校生か大学生といったところか、やややせ気味の長身で、バイクに乗っていたのかメットと黒の革ジャンを着ている。肩まで伸びた茶色の髪がの暑さのせいか濡れていたが、本人は気にしていない様子で平然としている。落ち着いて優しい微笑みを浮かべるその姿と整った顔立ちが相まって目を見張るものがあった。そんな男が入ってきたことに気がついたオーナーが洗い立てのカップを拭きながら声をかける。
「あら。はやかったのね拓也君。注文の品は二階よ」
「ありがとう」
拓也君と呼ばれたその男は笑顔で礼をいい、そのまま言われたとおり二階に向かった。二階はトメリカのオーナーが住んでいる部屋だ。少しきつめの階段を上がると居間に繋がっている。居間といっても洋風の、天井の高いオーナー好みの部屋だ。ここにも観葉植物や大きなのテーブルが置いてあり、喫茶トメリカの風情がうかがえる。その大きなのテーブル上にA4サイズの封筒が置かれていた。宛名に「拓也君」とかかれているそれを手に取ると、居間の光となっている大きな窓の下の小さなテーブル席に座り封をあける。

はじめに飛び込んだタイトルに満足そうな顔を表情をみせると拓也はそのまま読みすすめた。
ふと考えるような素振りをする。窓の外を眺めながら机の上をトントンと人差し指でたたく。しばらくして何か思いついたように椅子から腰を上げると1階に下りた。
カウンターにいるオーナーは洗物を終えてコーヒーを淹れているところだった。そのオーナーに声をかける。
「麗華さんありがと。これからもよろしく」
先ほどと同じように笑顔になる。その様子が気に入っているらしくオーナーも笑顔で返す。
「礼なら尚に言ってやって。それ尚が書いたのよ」
そう言って淹れたてのコーヒーを拓也に渡し、自分もコーヒーを飲む。
「尚って、誰?」
拓也が上目遣いでいうとオーナーはふふんと自慢げに話す。
「娘よ。ちょうどその樹斗ちゃんと同じ学校に行ってるのよ。」
「ふーん。マスターがすぐにうなずいてくれたのは尚ちゃんのおかげかな。」
淹れたてのコーヒーを楽しみながらマスターが今回の件をうけてくれたことに「なるほどね」とうなずく。
「そうね。」と一呼吸置いたマスターは続けてニヤニヤと意地悪そうな顔をして拓也にきく。
「それにしても拓也君は樹斗ちゃんみたいな子が好みだったのかしら?」
んふふとまたコーヒーを一杯飲むオーナーに拓也はあちゃぁと額に手を当てる。なんというか……やりずらい雰囲気を感じるのですが……と思いつつも拓也は素直に応える。
「うーん。ちょっと気になってるんだよね」
「ふーん?」
「はは。」
「ごちそうさま」と急いで席を立つ拓也。麗華はあわててバイクに乗った拓也を見ながら、「春かしらねえ」などといいながら笑顔でグラスをふく。今日も良い一日になりそうだった。

BACK                TOP                NEXT
 ホーム サイトマップ リンク