★冴川兄弟のドタバタ珍騒動 第一章 002

尚と樹斗の通う刻の森高等学校は有名な幽霊学校で、普通の学校よりも早い帰宅時間となる。何故かというと夜遅くになると校舎には不気味な声が響き、とても普通の神経では校舎には残れないからである。その為放課後は遅くまで残る人も少なく、教室も静かなので誰も近づかない。
授業終了のチャイムと共に下校する生徒たちの中に二人の会話が聞こえてくる。

「今日ついてきてくれない?」

この言葉は尚が発したものだ。

「ことわる」

突っぱねて冷たく答えて見せたのは樹斗だ。「ついてきて」というときは大抵何かあるときだ。今回も例外ではないだろう。

「まだ要件言ってないよ」
「大抵の想像はつく」

どうせなにか企んでいるはずだ。だから表向きにはいつもにこにこしていて引っ掛けやすいようにしているのだろう。その手には乗りたくないが、乗らないでいるのは楽ではない。

「今日暇なんでしょ。ついてきてくれるだけでいいんだからさあ」
「それでは、私が暇人のようだな」
「いつものことでしょ。それとも何、あんた忙しいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

ただ行きたくないだけでは理由にならないだろうか・・・などと、つい言いたくなるが、そんな事を言っても聞いてくれる相手ではない。

「ほら、やっぱ今日はあいてるんだ。ちょっとでいいからさ」
「それとこれとは別だ。着いてきて欲しいのか?」
「そうでなきゃさそんないって」

やけに面白そうに話している尚に比べ、しかめっ面をこいて睨んでいる樹斗の方は、明らかに面白くなさそうだった。

「そんなさそいかたでは着いていくやつもついてこないぞ。だがついてやってもいい。なにかくれるならな」
「無理してこられると面白くないなあ」
「かってにしろ」

ため息交じりの声になってしまうが、仕方ないだろう。だが、尚は見計らったかのように淡々と話を続ける。

「だって面白くないんだもん。普通いやいやついてこられてうれしい人っている?いないでしょう。私だってそうなの」
「確かにな。だが何かくれれば嫌々にというほどでもないぞ」

尚の表情が少し引きつる。

「樹斗も素直について着てっていわれたら、いいよって言ってくれてもいいじゃないの。私も樹斗が何かあったらいくからさあ」
「何かあったらいくというのは、私に害があってから悠々とその姿を見に行くということか」
「冷たいわね。そんなに私についてくるのがいやなの?」
「いやというより、尚に着いていっていいことはないから、自己防衛のつもりだが」

これは今までのことから樹斗が学んだことだった。

「そんな。人を危険人物にしないでよ」
「確かにひどいことだが、尚に着いていくと私自身が危ない。それなのに尚はいつも何ともない。私がいなくても平気だろう。」

これもまた本当のことだ。

「じゃあ、樹斗は私が何かあげたら来てくれるのね」
「どうしてそうなるんだ」
「さっき言ったじゃない。何かくれたらついていくって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ここまでしのいでいたのに、一言余計に言ったために行くことになるとは。

「じゃ、何かあげるからついてきてね」

仕方ない。まあ今回はおまけもついたから、今のうちに何かを決めておこう。

「そうだな、おいしいと評判の「トメリカ」のストレートティーをもらうよ」

またため息交じりの声になってしまう。尚はにやにや笑ってる。不愉快だったが、そこまで言われると何だかめんどくさくなってくる。とにかく、ついていくことになってまた夜に家を出ないといけないのだ。

「今日はお兄が帰ってくるんだ。あまり長い間は付き合ってやれんが、それでも構わないならな」
「そうなの?それで私についてきたくなかったんだ」

ちょっとしょんぼりしたが、次の言葉は明るかった。

「また頼むね」
「・・・・・・・・・・・・・」

・・・はあ、と内心思っても口にはださない。
頼むと言うのは私の兄のことで、尚はお兄と、兄貴と、兄さんが気に入っているのだ。なんでこんなに同じことを三回もいったかというと、それぞれ上からそう私が読んでいて、誰を呼んでいるのかすぐに分かるようにしているからだ。尚はお兄達のことが気に入っていて何かあれば連れてくるようにといつも言っているのだ。

「そろそろあきらめてくれよ。大変なのはいつも私に回ってくるんだからな。帰るぞ」
「あっ。まってよう」



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