★冴川兄弟のドタバタ珍騒動 第一章 003

その日の夜、夕飯時に樹斗は尚の家に泊まるといって出て行った。久しぶりに帰ってきたお兄はなんだかめずらしく黙り込んでいたが、出かけるときには声をかけてくれた。

「ああ、出掛けるの。せっかく帰ってきたのに。遅いから気をつけてくれぐれも騒ぎを起こさないで、それから変な人にはついていかないこと。それから・・・・・・」

などと随分長引きそうだった話も、

「そんなに説教たれなくても大丈夫だろ。お前も過保護だな」

と父に言われて困っているいつものお兄の顔を見た。
三男の兄貴は「たまには家で食えよ」だった。このごろ出掛けてばかりだったからな。次男の兄さんは、今受験生を卒業して大学に入ったのはいいけど、真面目だから大学にこもって勉強してる。たまには家に帰ってきて欲しいものだ。

親は何もとやかく言わず「尚ちゃんに迷惑かけないようにね」と言って、お小遣いをくれた。お小遣いをくれるということは一日分の食費。やはり今日は泊まりに行くことになりそうだ。言い訳ももう少し考えたほうがよかったのだろうか。

樹斗は出掛ける時お兄の部屋に兄貴が入るのを見た。だが特に気にすることもなく、さっさと出掛けた。




「紅兄、また行く気なのかよ。そろそろ御守も考え直したほうがいいんじゃないの?俺らだってもう高校生だぜ?」

紅兄とはすなわちお兄であり、冴川家の長男である。長身で髪が長く昔からよく女の人に間違われている。落ち着いてやさしそうな雰囲気に包まれているが、黒い目に時折見える紅い光がなんとなく挑戦的、時には好戦的にも見られ、よくけんかをしたらしい。父にも言われたとおり過保護なお兄はいつも私たちについてくる。もとい・・・見ていてくれる。ちょうどお兄が帰ってくる時に限って皆が出掛けるのでさびしいからかもしれない。

性格は、兄貴が生まれたときに名前を「緑の蒼の様に力強く生きて欲しいから蒼にしましょう」と言ってつけたらしいが、紅は「そうだね。全部がうそではないにしろ、ただ単にお尻が蒼かっただけかもよ」とつまらないジョークをいったそうである。あまり関心は出来ないがこの会話からして、紅という人物が大体わかるような気がする。


「いや。今回はいやな予感がしたから」
「そんなこと、毎回聞いてるんだけど」

あきれたように言う蒼は、とにかく目の前で出掛ける準備をしている人物をいじめてやろうと思っていた。だが、その人物は蒼の兄でありそう簡単にはのってこないのである。

「毎回なんで俺にいいわけするの?」
「別にそんなつもりじゃないんだけどね」


蒼は三男で、兄貴と呼ばれている。
紅ほど高くはないが、蒼も結構背が高い。やはり家系か、そんなに筋肉はついていないように見えるが、そう見えるだけで結構ついている。蒼の特徴は上の兄たちに比べ元気でよく減らず口を言っている。意地悪で乱暴だが何故か憎めないといったところか。多分本当は優しいからだろう。蒼も、紅のようによくけんかをしていたが、紅とは違い売られたのではなく売っているのだ。


「俺についてきて欲しいんだったらそういえば?」

向けた目は意地悪だった。まだ蒼はこりていなかったのだが紅は無視した。

「蒼も樹斗が心配なんだね」

勝手に決めないで欲しい。それは誤解だ。と蒼は思った。別に樹斗なんか心配じゃない。紅兄のほうが何かとここら辺では目に付くだろう。結局は自分もいくのだが、ついてこいとはっきり言ってくれたほうが行く気になるじゃんか。と思うのである。

ふさふさした堅い髪に指を絡ませて、蒼が思い通りにいかないとすぐする癖を見て、紅は薄く笑ってかえした。

「さ、行こう」




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