★冴川兄弟のドタバタ珍騒動 第一章 007

そのまま3人は家に着いた。「ただいま」と蒼が言うと洗物の音がやみ、蛇口をきゅっと絞った音がすると廊下左の扉が開き、台所からエプロンで手を拭いている母がでてきた。廊下の向こう側正面には居間があり父が新聞を読んでいる。

「あらあら。紅ちゃんどうしちゃったの?」

紅は蒼におぶられて意識がないのは一目瞭然だった。こんな状態なのに母はのんびりと構えている。冴川家では紅がのびていることはめずらしいことではなかった為免疫ができてしまっているのだ。だから蒼も

「またいつもの。しばらく寝かせといてやってくれる?」
「まぁ。しょうがない子ねぇ。そちらは?」

母がいっているのは拓也のことだった。蒼が紹介する。

「紅兄の大学の同僚だって。拓也さん」
「はじめまして。いつも紅にはお世話になっております」

とびっきりの笑顔をふりまく拓也に母はまぁまぁまぁとうれしそうに応える。

「随分と綺麗なかたねぇ。こちらこそいつも紅がお世話になって、あら私ったら、どうぞおあがりくださいな」

そういってスリッパを置くと「蒼ちゃん。紅ちゃんを運んだらちょっといらっしゃい。」といって居間に戻っていった。

蒼は母の一言に頭をかくと「はぁ」とため息をつく。拓也に「こっち」と手招きすると紅をおぶさりながら玄関横の階段を登り二階の部屋まで運んだ。鍵が閉まっていて紅の部屋に入ることが出来ないため、まず紅を自分のベットに寝かせ、ついでに拓也を部屋にいれると「紅兄は頼んだぜ」と言って母のもとに向かった。



「頼むといわれてもなあ」

散らかった部屋に何とか座れる場所を確保して拓也はそうつぶやいた。窓から外の様子を見たかったが、紅の寝ているベットで邪魔されているしテレビもなければお菓子もない。話し相手はぐっすりお休みのようで当分起きそうになかった。

「つまんないねえ。何かないのかよ」

部屋を見渡す限りあるのは教科書のしまい忘れと、宿題のやりかけ。それとわけの分からない紙くずだ。壁にはとくにたいしたことのない大きな世界地図がはってあって、隣の部屋に繋がる壁の方には机が置いてある。ほとんど物置の状態になっていて、実際に使っているのは小さくも大きくもないちょうどいい、四角いテーブルのようだ。鞄もクッションも適当に放り投げたといった感じでいかにもさきほどの蒼が使っていると言った感じだ。残念ながら遊びで使うようなものはなく、拓也に言わせると何もないということになる。

「俺にここにいろってか・・・」

紅の寝ているベットに座り寝顔をみる。

「さっさと起きろよ。ねぼすけ」

いいながら紅のおでこをつんつんとつつく。すると紅が少しうなってそっぽを向いた。
拓也はなんだか妙に落ち着いてしまったので紅から取った眼鏡を玩んでいた。
下の階から声が聞こえてくる。どうやら今回のことでちょっぴり絞られているらしい。居間の扉だろうか、扉が開く音がした後階段を登ってくる音がして蒼が部屋に戻ってきた。すぐにまたジャケットをきると

「わりぃ。俺の部屋なんもないから。その辺の雑誌適当に読んでて。おふくろに樹斗を迎えにいってこいっていわれちゃったんで、しばらくここにいて紅をみてやってくれる?」
「はい?」

そういうと拓也の返事を待たずにまたバタバタと階段を下りる音がして「いってきます」とさっさと出て行ってしまった。

「あ・・・おい?」

とすでにその返答を聞く人は外にでてしまったわけで・・・。

「どうしろっていうんだ?」

途方にくれる拓也だった。





尚の家に向かった蒼は思いがけないものを見た。それは空中でなにやらゆらゆらゆれていて、その向こうが透き通ってみえるのだ。顔は女か男かわからない人間のもので、世間では幽霊といって通じるものだ。

蒼は一瞬立ち止まってその幽霊らしきものを見る。しばらくにらみあいをすると、幽霊らしきものが頭のほうから消えていった。いなくなったと思ってほっと息を吐いた次の瞬間、蒼は頭を思い切り殴られたような衝撃にかられ倒れてしまった。その後目を覚ました蒼は目がうつろになり何か朦朧とした様子でゆっくりと歩き始めた。向かっている先は尚の家、喫茶店「トメリカ」だった。


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