★冴川兄弟のドタバタ珍騒動 第二章 011

その後喧嘩して、それでも暗いから手をつないではぐれないようにして家にかえったんだっけ。
今から考えても、4歳の子が言う言葉には思えない。それにかなり大きな樹で地上まで3メートルは夕に会った。まだ小さかった僕たちには身長の倍以上もあるあの樹を静司は簡単に降りたのだ。
そのあと小学校に上がったときには蒼も4歳で静司と遊べるようになり、僕とはあまり遊ばなくなった。そのことから僕は本に興味をもちはじめ、家に閉じこもることが多くなった。その間、静司は蒼を連れて外に遊びにいっていた。恐ろしかったのは中学二年のときで、静司が原因で三年の先輩に付けねらわれた時だ。
小学校のときはそんなに騒動を起こさなかった静司だが、中学に入ることになってからその容姿と器量が目立って三年生が中心に静司を襲い始めたらしい。そのころには静司は随分強くなっていて三年生は相手にならなかったらしい。うちの道場で休日になると仕事をするくらいだからそれもそうだろう。そこで、兄弟である僕が狙われ始めた。
はじめ三年生に呼ばれたとき、僕は静司が狙われていた事を知らなかった。いつも無傷で何事もなかったように帰ってくるのでそんなこと考えたこともなかった。だが、それを知って心配するということはなかった。心配する必要がなかった。

「実はお前の弟にはなしがあったんだがどうも聞いてくれそうにないんだよな。そこでちょっと思いついたんだがよ。兄弟であるあんたを捕まえておけば聞いてくれるんじゃないかとね」

いきなりこの人は何を言い出すんだろうとあの時僕は思った。だが、話の内容が分かりすぎてただそれを考えたくないから分からないふりをしていたのかもしれない。
いつの間にか人影が多くなっていて、逃げるにも道をふさがれて囲まれてしまっていた。自分の身体はあの時震えていたのだろうか、記憶にはない。

「聞いたぜ。あんためがねはずすとほとんど見えないんだって?」

そのとき僕は足がすくんで一歩も動けなかった。めがねをはずされるときも抵抗できなかった。ただめがねを外した男を見ていた。身体は動かなかったがやけに落ち着いて頭だけはものすごいスピードで動いていた。
そのうちめがねを外した男がいった。

「こいつ・・・すごい美人じゃねえか」

そういって無遠慮に髪をつかむとあごを持ち上げて上向かせた。
そういわれて他の男たちも紅の顔をしげしげとみる。

「・・・だな。こんな分厚いめがねなんかしてるから顔なんて見えなかったし」
「どうする?」
「やっちまおうぜ」

そういって拳を振り上げたところで誰かにその手をつかまれた。

「紅に手を出すなんて命知らずな奴らだな。死にたいのか?」

そういってとめたのは静司だった。紅の髪をつかんで離さない男が静司に向かっていう。

「本人がくるとはな。お前の大切な兄貴は俺たちの手の中だ。大人しくしててもらおうか」
「これはそっちの台詞だ。それ以上紅を刺激するんじゃねえよ」

そのやり取りをしている間に一人の男が紅を見て気づいた。

「こいつ・・・目が紅い・・・」
「遅かったか・・・」

そういわれたのを覚えている。めがねがはずされていたからその後どうなったのかは分からない。




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